ゲーテの色彩論は、約二十年の歳月をかけて執筆された大著であり、ゲーテはこの著作が後世においてどのように評価されるかにヨーロッパの未来がかかっていると感じていた。そこまでゲーテが危機感を抱いていた相手とは、近代科学の機械論的世界観である。色彩論においてはニュートンがその代表者として敵対視されている。ニュートンの光学では、光は屈折率の違いによって七つの色光に分解され、これらの色光が人間の感覚中枢の中で色彩として感覚されるとしている。ゲーテは、色彩が屈折率という数量的な性質に還元されて理解されることが不満だった。
ゲーテの色彩論がニュートンの光学と根本的に異なる点として、色の生成に光と闇を持ち出しているということがある。ニュートンの光学はあくまで光を研究する。闇とは単なる光の欠如であり、研究の対象になることもない。だがゲーテにとって闇は、光と共に色彩現象の両極をになう重要な要素である。もしもこの世界に光だけしかなかったら、色彩は成立しないという。もちろん闇だけでも成立しない。光と闇の中間にあって、この両極が作用し合う「くもり」の中で色彩は成立するとゲーテは論述している。
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